2021/05/16

PCの「独自冷却」は考えないほうがよさそう ビデオカードの自動ブースト 空冷と水冷

「PCを冷蔵庫に入れる」とか「ケースに保冷剤を詰める」のような明らかにダメな方法は論外として、効果がありそうな冷却法を積極的に実行するのもやめたほうがいいかもしれません。

実際に冷やすべき箇所が冷えておらず、温度センサーをごまかして冷却されたかのように見えるだけというのはかえって危険だからです。

CPUやGPUの動作速度を決める要素には、クロック数を指定するものと規定の温度に達するまで能動的にブーストをかけるものがあるのですが、適切でない冷却を施すと後者には深刻な問題をもたらす可能性があります。

センサーを冷やしてパーツの温度を低く見せかけただけでも「サーマルスロットリング」は回避できるので、実際よりも高温で長時間動作させることは可能です。しかしこれは…危険ですよね。


よく「ビデオカードが高温になって心配」と訴える人がいます。

適切なエアフローと負荷であれば、多くのビデオカードは出荷状態でブーストが有効になっているので、ベースクロックではなく「温度」を目標として自動的にオーバークロックされるのが普通です。

80℃前後を目標に設定されていて、これを超えないことがビデオカードを「定格」で運用している状態を示しています。

80℃というのを「ちょっと熱すぎるんじゃない?」と感覚的に判断する人が多いということなのかもしれませんが、それがビデオカードの実質的な定格温度であり、性能と安定性を両立できるように設計された正常な状態なのです。


さて……独自の冷却法を施してしまうと、実際には80℃を超えているのにオーバークロックを継続して負荷が増大し、エラーを起こしたり寿命が短くなったりする恐れがあります。

高性能なビデオカードには分厚いヒートシンクと複数のファンがついていますが、これを独自に改造して冷却性能をアップさせた「つもり」になっても、センサー部の温度だけが下がって動作速度をブーストさせ、全体としては高温の状態に陥ることがあります。

ヒートシンクは熱源と露出した部分だけでなく「隙間」にも風をくぐらせて熱交換させなければなりません。ピンポイントで温度を実際に下げることができても、周辺の温度が高くなっていれば定格運用から外れてしまうのです。

ビデオカードが正しく冷却されていない場合、HDMIやDisplayPortなどの端子が最初に損傷することがあります。GPUやVRAMには強い熱耐性があっても、映像出力端子は高温を想定されていないからです。

ノートパソコンのキーボードが壊れやすいのも発熱が原因です。熱源、メモリ、ストレージ、端子、キーボード、トラックパッドが1枚の板についているようなものなので、熱に弱いパーツから壊れ始めます。



基本的にPCケースは前面から吸気して背面から排気するエアフローを前提に設計されているものが多く、水冷クーラーでラジエターを取り付ける場合であってもケース内部のエアフローは確保する必要があります。

空気が流れるだけでかなりの熱を移動させることができるのです。

髪を乾かすドライヤーを手にしてみれば、前後が開放された筒の中にある熱源へ送風するだけで熱風が出てくる構造であることがわかりますよね。ドライヤーが吸気口と排気口、それに熱源と熱を追い出すファンで構成されているからです。

もしドライヤーが「筒」ではなく上下左右も開放されていたらどうなるでしょうか?

同じファンを回しても、熱源に当たった風が分散してしまって内部を上手く冷やすことができなくなります。

これが「ベンチ台は必ずしも冷えない」といわれる理由です。

開放された環境では表面の局所的な温度は下がっても、内部の熱を上手く冷やすことができません。
ベンチマークでは一番冷えている箇所……都合のいい数値だけに注目されやすく、短絡的に「よく冷える」と勘違いしてしまうことが多いのです。

ドライヤーにファンがなかったらあっという間に火が出るほど高温になりますが、ベンチ台にケースファンによる風を当てないのはこれと同じような状況になります。…ちょっと極端なたとえですが。

長期に運用する場合、ベンチ台はいろいろ不利になってきます。エアフローの問題だけでなくホコリがたまりやすいことや、うっかり物を落として破損させたり、猫や小鳥が飛び込んで怪我をしたりすることもあるからです。

ベンチマークを行うこと自体が目的となり、本来の運用から外れてしまう問題もつきものです。


PCケースは入手性の高い「普通のミドルタワー」がもっとも適切で、奇抜なデザインや怪しい独自冷却の要素のないものを選んだほうが無難です。下手に悩むよりもBTOショップに組んでもらったほうが失敗しません。

開放された環境よりも、ある程度閉鎖されて吸気と排気の明確なケースのほうがエアフローの構築がしやすくなります。隙間だらけの住宅ほど実は計画的な換気が難しいのは、空気は最短距離を流れる性質があるため、近接する2点間を空気が移動してしまって全体に及びにくくなるからです。

部屋の対角線の窓を開けることによって効果的な換気が可能になります。

空気は「さらさら」したイメージがあるかもしれませんが実際には粘性があり、適切でない換気法でも時間をかければすべての空気が外気と入れ替わります。ただあまりにも非効率なので、窓を開けるだけでなく換気扇やサーキュレーターを利用するということです。




空冷と水冷の違いは「熱容量」です。

同じ熱を受けても気体より液体のほうが温度が上昇しにくく、また下降しにくい性質があります。

同じ大きさの容器に「80℃の空気」と「80℃のお湯」を入れて常温で放置したらどちらが早く冷めるでしょうか? 80℃の空気はすぐに容器から出ていって周囲の温度と等しくなるところまで冷めますが、80℃のお湯はなかなか冷めません。

この実験を空冷と水冷に当てはめると80℃のお湯はさらに条件が厳しくなり、「密閉容器」に入れた状態での比較になってしまいます。なぜなら水冷クーラーは液体を漏らしたり蒸発させたりしないように全体が密閉されているからです。(

密閉容器を液体が循環し、表面積を広くして周囲の空気との熱交換の効率を高めるためのラジエターで放熱させる仕組みなのですが、液体の温度が80℃にもなると到底冷却しきれずに再循環することになってしまいます。

水冷はなかなか温度が上がらないが、なかなか下がらないということです。

水冷の利点というのは、熱源に密着する「水枕」とそこからチューブを流れて放熱する「ラジエター」との距離を物理的に遠ざけることが可能になるところにあります。

わかりやすくいえば、空冷クーラーはPCケース内で放熱し、水冷クーラーはPCケースの外に向けて放熱します。

CPUの空冷クーラーは、特に「ツインタワー」のものはファンがVRMやメモリにも空気の流れを生じさせ、マザーボードのコンポーネント全体の冷却に有効です。トップフローと違ってサイドフローはケース全体のエアフローに従うため、排気の効率がよくなります。

総金属製のヒートシンクは液体と違って「温まりやすく冷めやすい」性質があり、温度の急変が起こりやすい特徴があるので、温度を目標とするオーバークロックでは速度が安定しない欠点があります。また冷却を追求するととにかく大型化しケースを選ぶことや、マザーボードへの負担や「見た目」の問題なども出てきます。

水冷クーラーは水枕、チューブ、ポンプ、ラジエターと複雑な構造で高価になりがちですが、空冷よりも温度が上昇しにくいことから動作速度を固定しやすいメリットがあります。しかし同時に温度が下がりにくいことでもあるので、ラジエターの性能を超えてオーバークロックすると空冷よりも扱いが難しくなります。液漏れやポンプの故障など、懸念材料が少し多いのも問題です。


空冷も水冷も最終的に「空気と熱交換する」ことに変わりはないので、室温が高いと冷却効率が著しく悪くなります。部屋の湿度……水蒸気もまた非常に熱容量が大きいので、多湿の環境ではそれ自体の持つ熱量が大きく、冷却効率を悪化させます。

エアコンは部屋の気温を下げるだけでなく、熱容量の大きい水蒸気を積極的に奪う(熱交換器に結露させ室外へ排水する)働きがあるので、どんなに窓を開けて扇風機や日除けや打ち水をするよりも効果があります。

エアコンは「あったらいいな」ではなく、「夏場は必須」と考えてください。



余談ですが…

高温多湿の時期には打ち水をしてはいけません。「気化熱」というのはその場で熱を消滅させるのではなく、熱を水蒸気という形に置き換えているだけなので、打ち水は庭の温度を下げるが水蒸気となって部屋に侵入し、かえって暑さを増大させてしまいます。

打ち水が有効なのは、空気が十分に乾燥していて、なおかつ発生した水蒸気を移動させる「風」が吹いている場合だけです。

日本の夏はそもそも多湿で風があまり吹かないので、打ち水は周辺の湿度を上昇させ続け、膨大な熱量を蓄えた水蒸気の量を増やす結果になるだけなのです。「温度」と「湿度」の関係をよく理解せずに打ち水をすることのないようにしましょう。

「冷風扇」なんか使ってはだめですよ。冷風扇が有効な条件に日本の夏は当てはまりません。

もちろんPCに水をかけることは絶対にやってはいけません。






この実験も厳密には空冷が有利すぎる条件になっていますが、空気の「熱量」をお湯に合わせると非常に体積が大きくなります。比重をそれぞれ当てはめて考えると、空気の体積は水の3000倍にもなるので、いかに水が多くの熱を蓄えているのかがわかるでしょう。

なぜ「PCケースは大きいほど冷却によい」といわれているのかが理解できるはずです。

放熱のためには大量の空気と熱交換させる必要があるからです。

しかし無限に大きいPCケースを作ることはできないので、限られた空間でより多くの空気と熱交換するためにケースファンで風を送るようになっているわけです。風量の大きいケースファンほど効果的な理由は、単純に時間あたりに出入りさせられる空気の量が多いからです。これでスッキリ理解できるのではないでしょうか。

では水冷のほうがいいのかと思いきや、何度もいうようにどのみち高温の液体を冷やすためにラジエターで空気と熱交換しなければならないので、放熱の仕方が違うだけで本質的な冷却のメカニズムは何ら変わらないことを覚えておいてください。

ちょっと変なたとえですが、「火力も水力も原子力発電も結局はタービンを回しているだけ」というのと似ていますね。最終的に何がどうなっているのかを理解すれば、冷却のメカニズムもよくわかるようになると思います。

PCの水冷クーラーも循環ではなく「垂れ流し」の水を使えば空冷に頼らずに効果的に冷却できるのですが、ちょっと無理がありますよね。


どうしたってPCの温度を「部屋の気温」より低くすることは物理的にできないので、夏場はエアコンによる冷房が必要不可欠です。

水冷はPCパーツというよりも液体そのものを冷却することを考えるようなものなので、ラジエターの大きさで冷却能力が決まります。


PCの冷却は初歩的な熱力学で理解することができ、決して難解な課題ではありません。

打ち水や保冷剤を持ち出すのではなく、エアコンを使うようにしましょう。

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