2025/11/03

ヘッドホンアンプの位相補正はイコライザーやバーチャルサラウンドとは正反対のアプローチ IK Multimedia ARC ON·EARのPhase Alignはゲームチェンジャーかもしれない



【IK Multimedia ARC ON·EARレビュー】
2025年10月28日発売のARC ON EARは単に忠実な再生機、リファレンスやモニター用の手ごろな価格のDAC内蔵ポータブルヘッドホンアンプだと思っていて、専用アプリによる設定は「まぁよくあるエフェクトだろう」とあまり期待していませんでした。

しかし実際には想像を超える素晴らしい成果を得られるものでした。

この世には2種類のエフェクトがあって……
1つはよくあるイコライザーやバーチャルサラウンドなどの「音をずらす」エフェクト。
もう1つはヘッドホンの特性を解析し、それに合わせて「本来の音に補正する」Phase Alignのような “逆” エフェクト。

音をずらすのがエフェクトならば、元に戻すのが位相補正。

わかりやすくいうとこうなります。

でも具体的に説明しないといけません。

まず音というのは「周波数」がどうのこうのといわれ、「波長が合う」という言葉を日常でもよく使うと思いますが、どちらも基本的に同じもので、波長は周波数と逆比例の関係にあります。

もう一つは「位相」です。
周波数が一致していても、位相がずれていると波形が一致しません。波形を重ね合わせても結果が変わってしまうため、これを整えることが重要になってくるのです。


「フラットな周波数応答」という表現をよく見かけますが、位相に言及しているものはほとんどありません。

「あの人とは話の波長が合う」というシチュエーションは山ほどありますよね。
しかし「あの人とは話の波形が合う」という人を見たことはありますか?

物理現象としての「波」を捉えるには、その周波数(波長)だけでなく位相も重要なのです。

音というのは振動が連続して伝わる物理現象のことですから、時間軸に対して波形を同期させないと「ずれた音」に聞こえてしまいます。
ヘッドホンのドライバーは「再生周波数」だけでなく周波数に対する応答のタイミング、つまり「位相」にも製品に固有の特性やくせといったものがあるため、適切なモニタリングをするには「周波数がフラット」なだけではなく「位相を合わせる」必要があります。

ARC ON EARのPhase Alignという機能は、IK Multimediaが主要なスタジオモニターヘッドホンの再生特性をあらかじめ分析したデータに基づき、独自のリファレンスのカーブに合わせるよう周波数と位相を補正するものです。

これによりフラットな周波数特性だけでなく、位相のずれも補正されたサウンドを再生することが可能になっています。

ヘッドホンごとに異なる位相のずれをリファレンスに補正するのがPhase Alignの実態です。

CALボタン(Calibration)で周波数特性をリファレンスに補正し、Phase Alignで位相をリファレンスに補正。


ARCの理屈がわかったところで実際にゲームプレイで使用してみましょう。


……なるほどwwwwこれはいいものだわwwwww

位相を一致するように補正されたサウンドのほうが、明らかにステレオの音像が明瞭に聞こえます。

「フラット」というと、どんな周波数の音でも “同じボリュームに聞こえる” と思いがちですが、それのみでは波形の半分の要素しか考慮していないことになります。
位相がきちんと同期しているかどうか。
これがPhase Alignの真髄であり、音の性質を知るうえでの課題です。

FPSゲームの定位や索敵が改善しますが、それだけではやはり半分しか理解していません。

位相補正により異なる複数の音が同時に再生されている状況でも、個々の音が上手く分離して聞こえるようになるのです。


「位置ずれ」や「遅延」といったものであれば感知しやすいのですが、位相のずれというのは周波数によって異なるタイミングのため、なかなか説明するのが難しいです。

「位相というのが何を意味しているのかよくわからないから、わかりやすい周波数特性ばかりが宣伝される」。

これに尽きます。本当にw

周波数やビットレートばかりで、位相にはノータッチです。

位相に無頓着で設計された製品が多いから、バーチャルサラウンドを実装してごまかすのが常套手段になっています。


上のYouTube動画では部屋に除湿器を稼働させた「騒音」の中をステレオマイクで収録していますが、これほど余分な騒音が混じっているのに位相の整ったサウンドは定位や聞き分けが完璧です。

ARC ON EARの素晴らしさを実感すると同時に、フラットでリファレンスとされているヘッドホンでも実際には乱れがあり、補正により改善されるのだということが理解できました。

オーディオテクニカの “リファレンスヘッドホン” ATH-R70xaはARC ON EARのヘッドホンモデルに含まれているため、これを選択しPhase Alignを有効にすることで周波数と位相のキャリブレーションが適用されます。

対応しているヘッドホンを持っていることが前提ですが、IK Multimediaのデータベースに載っているヘッドホンを使っていればARC ON EARはとんでもなくゲーミング向きのデバイスといえるかもしれません。


ARC ON EARのエフェクトは一般的なものとは目的とアプローチが正反対です。
もともと乱れている(リファレンスからずれている)ものを補正するようになっているため、ヘッドホンの特性を分析したデータが必須です。ヘッドホンごとに異なる特性への対応が必要ですので、使っているヘッドホンに適当なプロファイルをあてても期待されるような効果は得られないことに注意してください。

今後、アップデートで対応製品が追加されていくそうですよ。


モニターヘッドホンといっても、業界で厳密な規格や取り決めがあるわけではないため、実際の音にはメーカーの思想やコンセプトが反映された「味付け」が少なからずあります。
もちろんIK Multimediaとて例外ではなく、「リファレンス」というのが単なる概念になっている可能性もあるのですが、私が聞いている限りではとても上手く機能しているように感じます。

味付けを行うエフェクトではなく、味を取り除く処理を行う。

エフェクトが足し算だとすると、位相補正・Phase Alignは「引き算」です。

味付けをしたり変化させたりするのではなく、本来の音に補正する。


もちろんこの補正もIK Multimedia独自の基準によるものなので、やはり完全ではなく、誰もが納得できることはないのですが……


IK Multimedia(アイケーマルチメディア) ARC ON·EAR 初回限定版 国内正規品

ARC ON EARをゲーミング目的で買ったレビューはまだ少ないと思います。
もしこの記事を偶然でも見た人は幸せですねwww

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