デスクトップやスタジオのコンソールなんて持ち運べないから、音楽制作さえもワイヤレスヘッドホンを使用するプロも増えてきているらしいです。
そもそも視聴者の多くが本格的な「リスニングルーム」に住んでいるわけではないので、98点を99点にする努力よりも、90点を91点にする感覚のほうがクリエイターも作業に専念しやすいでしょう。
IK Multimedia ARC ON·EARなんて手のひらサイズだし内蔵バッテリーだし、これがプロフェッショナルユースに対応できるとは思えないと、素人は考えるかもしれません。
ヴァーチャルスピーカーズの効果はどれを選んでも参考程度。不自然さや作り物感はないけれど、期待されるような「スピーカーで聞いている感じ」は残念ながらありません。
ところがそんなおまけ程度の機能とは裏腹に、ヘッドホンの位相補正は優秀で、ライブラリに登録されている製品を持っているのなら非常に有用なオプションです。
このコンパクトさで本格的なオーディオインターフェースよりも全音域にわたって低歪み、位相を正しく再生できるというのはちょっとした驚きです。
というのもオーディオ製品のスペックは、特定の音域や有利な条件での計測データのみを公表しているものが少なくなく、評判と実態の乖離している闇の深い世界だからです。
「ダイナミックレンジ120dB? うちは130dBだぜ! いやいや132dB!」
などというのは実測値ではなく、搭載しているDACチップのカタログスペックをそのまま掲載しているだけであることがほとんど。
あながち「ウソ」でもないのですが、実装するとカタログの数値からは大幅にスペックダウンしてしまう──電源や回路設計の関係で必ずロスがある──ので、やたら高性能に見えても真に受けないようにしてください。
グラビアアイドルや風俗嬢のスリーサイズ、とりわけウエストの数値を信用してはいけないのと同じです。元女子高生(45歳)のようなものです。
イメージビデオのパッケージ写真と本編が別人(のように見える)だとしても補償されませんよね。それと同じことです。
“加工が日常となれば、無加工は非日常に見えるのだ──。”
フラットだニュートラルだといっても、実際には視聴者の好みや時代の流行に左右され、味付けや加工されたサウンドであることが大半です。みなそれぞれオンリーワンだと思うからバラバラになってしまいます。
少しでもアドバンテージやマーケティングで有利になるように「盛る」。
さて、ARC ON EARのようなバッテリー内蔵の小型DACアンプは、せいぜい趣味か個人制作の域を出ないように思われるかもしれません。
しかし可搬性と互換性が抜群に高く、一度ARCのアプリで本体に設定を保存すれば、どんな環境でも同一の結果を得られるようになります。
つまりこれをチームで一括導入すれば、みな同じ環境を構築することが容易となり、どこにいても一貫した作業に取り組むことが可能なのです。
Grace Design M900-デスクトップDACヘッドフォンアンプというモニターの定番商品がありますが、これはARCの3倍近い価格で、バッテリーも内蔵していません。
現代はオーディオ製品のハードウェア性能が向上し、音楽制作のプロフェッショナルの水準が下がり、副業やカジュアルなスタイルでのクリエイターも増えてきました。
それでARCのような最低限のインターフェースとモバイル性を備えたデバイスは、今後さらに需要が高まると予想されます。
実際ARCのメーカーIK Multimediaは未来のユーザーを見越して製品の継続的なアップデートや、キャリブレーションに対応したヘッドホンを追加していくことを発表しています。
モバイルで位相補正に注力したDAC内蔵スタジオモニターヘッドホンアンプというのは、まだ競合製品のない分野なので、新しい物好きにはたまらないでしょう。
有象無象オーディオやゲーミングデバイスの動作の悪さや実態と異なるセールストークにうんざりしている私ですが、ARC ON EARはこれまで使った製品の中で一番いいと思っています。
ハイエンド機が欲しければそちらを買えばいいし、手ごろなものが欲しければこちらを買えばいいでしょう。用途や好みで選べばよく、強制はされません。
たとえば初めからRMEやUniversal Audioなどの定評のあるブランドに目をつけているのなら、間違いなくそちらを購入したほうがいいです。
この手の買い物で “価格で妥協” するのはろくな結果にならないため、一定の評価のあるものを選ぶべきです。
たとえ妥協して満足したと思っても、あとから高い製品を買うまでは気が済みません。それが「沼」です。
したがってこのような製品は「ノイズ」であり、妨害的なものにさえなります。
真偽や優劣についてコストパフォーマンスの観点から熟考するよりも、思考停止で高価なものを買ったほうが多くの場合、幸せになれます。資本主義の原則を忘れないでください。
SNSは声の大きい人が幅を利かせているだけなので、「話半分に」聞いておくのが無難です。
情報を追っているうちに目的や主旨が変わってしまうこともあり、「参考程度に」済ませるのはなかなか難しいのかもしれません。
欲しい人の背中を押し、買わない理由を求めている人は引き留めます。
IK Multimedia(アイケーマルチメディア) ARC ON·EAR 初回限定版 国内正規品
2025/11/04
移動しても制作・作業環境を変えたくなければ最初からモバイル・ポータブルデバイスを選ぶのがいいのでは
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