2025/10/28

IK Multimedia ARC ON·EARレビュー Windows11に接続するとUAC2.0で動作するも「音飛びしない」

 IK Multimedia(アイケーマルチメディア) ARC ON·EAR 初回限定版 国内正規品



「スタンドアローン」というのはアナログ入力での動作のことであってUSBオーディオデバイスとしての運用ではないのでしょう。
真の汎用USBオーディオであれば、ドライバーをインストールしない場合にはUAC1.0で動作するはずだからです。

Xduoo Link2 BalやSound BlasterX G5/G6では「音飛び」に悩まされていましたが、ARC ON-EARは音飛びしません。
デバイスのプロパティーを見てもARCは思いっきり「USBオーディオ2.0」と表示されていますが……つまりこれはUAC2.0だから音飛びするのではないということを示しています。

もしかすると搭載されているDACが原因…?

ARCはESS SABREで、XduooとG5/G6はCirrus Logicです。

ARCはWindows11とのプラグアンドプレイによる動作がUAC2.0で、24bit/44.1kHzが既定の形式。24bit/192kHzまで選択可能。ボリュームは100%になっている。
USBケーブルで接続してARC本体の電源ボタンを入れると、即座に再生デバイスが「ARC ON EAR」としてセットアップが即完了。そのまま普通に音が出るようになる。OSの再起動が要求されることはない。

本体の底にMade in ChinaではなくItalyと刻印されているのは珍しくていいかもしれない。
ボタンとランプには明るいオレンジ色のLEDが採用され、夜間でもよく見えてしかも「まぶしくない」ところが非常によい。ありがちな青や緑のLEDはまぶしいが、ARCのオレンジ色は目に優しい。またアプリを使うと輝度の変更やFNキーで消灯するように設定可能。

ARCの本体のノブで精密にボリュームを上下できるようになっているので、PC側は100%のままでよい。
アナログのポテンショメーターではなくデジタルのボリュームコントローラーなので、「12時」の位置にこだわらなくても左右のバランスやダイナミックレンジは適切に出力される。よくある「無限に回り続けてボリュームのわからないダイヤル」ではなく、8時の位置から4時の位置まで回せるタイプのノブだ。
非常に音量調整のレンジが広く、ATH-R70xaでも爆音で再生できるため音量に困ることはないだろう。200mWは十分な電力出力だ。

音量を上げるより下げることのほうが難しいデバイスが多い(下げるとギャングエラーが起こりやすい)ので、小さい音量の調整がしやすい設計なのは素晴らしい。高感度のイヤホンでも問題なく使用できる。
なおボリュームノブを回している間はプツプツというノイズが聞こえるが、ボリュームの位置を決めればノイズはピタリと止まるので問題ない。
無音時のホワイトノイズは皆無。

サウンドプロパティーで「構成」をクリックすることのできない純粋なステレオ(2ch)出力。
Dying Lightのサウンドも正常。きちんと背後の音が聞こえる。

ARC背面の電源ON/OFFのスライドボタンは、OFFのままでは認識されない。
てっきりバッテリー駆動にかかわるボタンだと思っていたのだが、アナログ/USBにかかわらずONにしておかないと動作しない。

内蔵バッテリーが満充電になると、電源がONでも白色のインジケーターランプは消灯する。

PCと電源が連動しないため、シャットダウン後はバッテリー駆動が続いてしまう。1時間経過しても電源が入ったままである。
少し面倒だが手動でOFFにするか、PCのBIOSでErPを無効にしてUSB機器への給電を止めないように設定するほうが無難か。さもないとバッテリーを消費し続ける。


ARCは写真で見るよりも安っぽい質感だがアルミニウム製であり、手にすると少しずっしりと重たい。ボタンを押すときのパチパチいう音も安っぽい…なんとかならなかったのかw
付属のオーディオケーブルは3.5mmと6.3mmのプラグに見えるが、6.3mm(標準プラグ)側はネジを回す要領で取り外すことができ、中身は3.5mm(ミニプラグ)になっている。
この6.3mm変換プラグはメス側がスクリュー式のため、流用しようとしてもイヤホンのプラグの形状によってはまったく挿せない。別途プラグを用意する必要があるかもしれない。

ドライバーソフトウェアは製品登録が必要なうえ、なんか個人情報を入力しても上手く反映されないので導入できていないwwwww
シリアルナンバーはパッケージに同梱されている正方形の厚紙「Register Product」の項目に書いてあるので、絶対に紛失しないように。
しかし登録したのにサイト上に表示されないためソフトウェアをダウンロードすることができない。

個人的にこういう回りくどい仕様は求めておらず、純粋なモニタリングやリファレンスとしてのオーディオデバイスが欲しかったので、ドライバーレスで動作するし、まぁインストールできなくても困らない。というか、いらないw

「スタンドアローンで動作するため、DAW、プラグイン、ドライバーは不要」という説明に偽りはなかった。

ソフトウェアによる補整や独自のアルゴリズムによるスピーカー音響のシミュレーションが売りのARCなのだが、実際のところ大して期待していない人が多いのではないだろうか。むしろ「フラットな再生機」や「味付けのないサウンド」を求めて、リスニングではなく制作側・オーディオインターフェースに搭載されているようなDAC/アンプが欲しいのだ。妥当な価格で。
そもそも(すべてのヘッドホンの)周波数特性が一貫して同じである必要はなく、一致させる必要もないのではないか。人間の聴覚には柔軟性があり、想定されるような結果をもたらさない場合があるからだ。
それならドライバーレスで運用するARCはうってつけだろう。
真のプラグアンドプレイ、ボリュームノブの挙動、広い調整レンジ、十分な出力、色付けのない正確で安定した周波数特性、無音時のホワイトノイズがなく静寂であることが重要なのだ。

公表されているTHDやダイナミックレンジの値は(おそらく)実測によるものであり、DACチップのカタログスペックをそのまま書いている製品や、明らかに誇張した数値を載せている浅ましい商品とは違ってARCは信頼性が高い。
もっとも良好な条件の値だけを表示している怪しい製品が多いのだ。

ハードの基本的な性能が優秀だからソフトウェアによる補整が生きてくると考えればよい。


ARCはたとえ音飛びするとしてもアナログ接続で “スタンドアローン” として使えればいいやーーと思っていたので、いい意味で予想が外れました。
音飛びするのはUAC2.0やドライバーが直接の原因ではなく、Cirrus Logic製のDACか、製品の設計そのものにありそうですね……。

iFi audio ZEN CAN 3 / Blue 3よりはるかにまとも。
ARCは内蔵バッテリーへ充電が行われている間は少し暖かくなるが、充電が終わってからは使用中もずっと冷たいまま。ZEN CANが終始アチアチなのと比べたら雲泥の差。

「オーディオインターフェースの録音機能はいらないから再生だけほしい」という人は多いと思うんですよ。レビューでも聞き専の使用感が充実しているのがよくありますから。RMEのBabyfaceあたりはその筆頭。録音やDAWになんか興味がなくて、純粋に「フラットで脚色されていない再生能力」を求めているのなら、ARCが価格も手ごろで最適かと思います。


製品登録から数時間が経過すると、ようやく公式サイトに情報が反映されました。デバイスの低遅延出力は魅力的なのに、サイトの動作は非常に遅い。
……ダウンロードも非常に遅い。数分~数十分は覚悟。
で、ZIPファイルを展開してexeを実行するとWindows Defenderがブロックwwww
ダイアログを確認して実行。

ようやくインストールできてアプリを起動すると、さっそくファームウェアアップデートの案内から始まりました。更新は1分程度で完了。
アプリのUIは英語のみで言語変更などはできない(項目が見当たらない)。

ARCに実装されているESS SABREは32ビットの内部処理を行うDAチップなのですが、このソフトウェアをインストールしてもWindowsのサウンド設定は24ビット固定です。互換性を重視しスタンドアローンでの動作に主眼を置いているので、こういう仕様なのでしょう。
DSP側で32ビットの内部処理を行い、最終的に24ビットで出力されます。

Auto - Standbyを5分に設定し、PCの電源を切ってから5分後にARCの電源も切られるのか、またPCの電源を入れれば自動的に復旧するのかを確認することにします。判明しだい追って報告します。


あ…このアプリけっこう面白いwww

思ったよりも簡単にトーンやバランスを破綻なく変更でき、よくある「周波数ごとに棒グラフを上下させて調整するEQ」(グラフィックイコライザー)とはかなり使い勝手が違います。

CAL(Calibration)をONにすると操作できるようになるダイアルはマウスドラッグで円弧を描くように動かすのかと思いましたが、形に沿ってマウスでなぞるのではなく、「上下にドラッグ」します。
上に動かす(BRIGHT)と音がより明るく元気になり、下に動かす(WARM)とこもった感じになります。

CALを有効にすると上のFREQ RESPONSEのグラフに①②③の数字が出現し、それをドラッグすると、それぞれの位置を起点として滑らかに周波数特性を変更できます。リセットボタンが見当たりませんが、数字をダブルクリックすると元の位置に戻せます。
①と③はシェルビングとピーク調整、②はピーク調整専用のスリーバンドイコライザーとなっています。

CALのPhase Alignはヘッドホンの位相(フェーズ)をIK Multimedia独自のリファレンスのターゲットカーブに調整する機能で、これを有効にすると遅延がわずかに増加(1.35msが最大21.0ms)する点に注意してください。位相を加味した補正を行うためであり、遅延は必然的に増加するのです。

個々のヘッドホンの再生周波数ごとに異なるドライバーの振動は、微妙な時間差をもたらして位相のずれを引き起こします。この補正と左右のチャンネルを同期する過程で遅延が追加されます。遅れている音声成分に合わせるための処理であるため、決してDPSの性能が悪いわけではありません。これはリアルタイムレンダリングの原理的な限界です。

とはいえこれはサウンドデバイスとしては十分に低遅延といえるもので、一般的な再生機器よりも優れています。

人間の聴覚で直接、音の遅延を認識することのできる限界が10~20ms(左右の耳の遅延は0.6ms未満)であり、空気中を伝わる音速を考慮しても1.35msはきわめて低遅延であるといえます。
ゲーミングオーディオのバーチャルサラウンド等のエフェクトは、映像の数フレーム単位で遅延が増加するものさえあり、20~50msほどの処理の遅れから「気になるレベル」になることを思えば、ARCの処理は優秀です。控えめにいっても必要十分でしょう。競合製品と比較しても上位に入る早さで、ソフトウェアベースの処理よりも高精度に行われます。

もしあなたのお使いのヘッドホンがARCのデータベースにあれば、ぜひともCALで設定して使用してください。ヘッドホンの位相を正しくマッチさせることは、単なる周波数の調整やサラウンド等のエフェクトとはまったく異なるアプローチで、たとえるなら “眼鏡による視力の補正” といえるものだからです。
Phase Alignはサウンドの味付けや好みの脚色を施す機能ではなく、事前に各ヘッドホンのドライバー特性を分析し、リファレンスからの相違や乖離を補正するものであり、定位や同期のズレを物理的に改善する働きをします。


STUDIO(Studio Simulation)を有効にすると、Virtual Speakersも有効化でき、SELECT SPEAKERSから聞きたいスピーカーを選ぶと、まるでその機材から音が出ているかのように聞くことができます。

Studio Simulationの図に2つ表示されているスピーカーのアイコンをマウスでクリック・ホールドしている間、片方のスピーカーからのみ音が出力されている状況を再現できます。これでスタジオでの音響を左右別々に再現し、適切な編集が行えるようになっています。

Ambienceは微小なエフェクトでステレオの音場を自然に表現するのですが、打楽器などの瞬間的に発せられるサウンドを調整する際には妨害的に作用する場合があるため、必要に応じてOFFにしてください。

Headphone Modelは自分の使っているヘッドホン(具体的なメーカーと機種のいくつかが登録されている)の中から1つを選択します。ドンピシャでオーディオテクニカのATH-R70xaがあるので、私はこれをセット。
何も選択していない状態から音の雰囲気が明らかに変化したことがわかります。これがより「フラットでニュートラル」かどうかを判断するのは実は難しいですwwww
何度も言いますが人間の聴覚には柔軟性があり、どんな機材でもしだいにフラットでニュートラルに聞こえるようになりがちだからです。

プリセットは5つありますが、事前に何も設定されていないことから、まぁそれほど有用ではないのかもしれません。
もし自信を持ってこのオプションが実装されているのなら、1つはデフォルトで、残り4つは定番のスタジオモニター機材が登録されていても不思議ではないはずなのです。
箱出しの状態ではプリセットがすべてデフォルトなので、買ってすぐに適当に切り替えて遊ぶことができないのは惜しい。

プリセット名をダブルクリックすると任意の名前を入力できます。

プリセットに登録しておけば、アプリを終了しても設定がARC本体に保存され、ボタン操作のみで切り替えが可能になります。
アプリは特にOSのタスクに常駐することもなく、スタートアップにも登録されません。
単純にARCを設定するためだけのソフトのようです。これはいいことですね。
常駐アプリがリソースを消費するほかのデバイスと異なり、ARCはたしかにスタンドアローンで動作する製品です。

ゲーミングオーディオにはARCにとてもよく似た外観や機能を持っている製品がありますが、ゲーム用のものはバーチャルサラウンドや「足音・銃声」など特定のサウンドイベントを強化することに偏っていて、ARCのように汎用性が高くなく、常駐アプリがてんこ盛りで信頼性に欠けるところが目立ちます。
ARCには「設定を済ませたらソフトをアンインストール」という面倒なことがありません。

ただ注意してほしいのは、ARCにはいわゆる「ミキサー」としての機能はハード・ソフトいずれもまったく備えておらず、オーディオインターフェースのように入出力そのものが充実している製品ではないということです。
スタジオでの最終的な出力の精密な確認とスピーカーの音響をシミュレーションすることが目的であり、収録や編集作業で使うものではありません。

「再生に特化したオーディオインターフェース(のようなもの)が欲しい」という人には最適といえるでしょう。待望の「こういうのでいいんだよ」というのをコンパクトに具現化した理想のデバイス。
製品登録とアプリの導入と英語の解読に手こずるだけで、その後の設定は難しくなく、完全にスタンドアローンで快適な運用ができます。

総評:UAC2.0なのに音飛びしないことにも感心したが、思いのほかアプリでいろいろ調整するのが面白く、期待の2倍くらいいい製品。まぁバッテリーはよほど気にすることはないと思う。デスクトップでしか使わないからね。現時点(2025年10月29日)でアプリもマニュアルも英語版しかないのはちょっとアレだが、操作はまあまあ直感的にわかるし、マニュアルも難しい英語ではなくコピペして翻訳すればほぼ理解可能。
再生し傾聴することにだけ特化した、ある意味ヘッドホンアンプの本来の姿。おすすめですよ。

IK Multimedia(アイケーマルチメディア) ARC ON·EAR 初回限定版 国内正規品

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